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結婚式における音楽利用の著作権が分かり難過ぎるので整理する

著作権

ISUM(一般社団法人 音楽特定利用促進機構)が結婚式における音楽著作物の複製権の代行処理事業を始めました。
結婚式で使う音楽著作権を一括代行処理「一般社団法人 音楽特定利用促進機構」 | ISUM
  
これを受けて、結婚式における著作物利用と著作権に関する記事がたくさん書かれていますが、正しい説明がなされているページはほとんどありません。知恵袋の回答も間違っているものが多いですし、あまりに分かり難いので弁理士の方のブログても正しくないことも。。
かくいう私もこの記事を途中まで書いてやっと自分の思い違いに気づきました。
  
そこで、自分の中でのまとめも兼ねて、自分なりに結婚式の著作権について整理したいと思います。
なお、以下は個人の解釈の1つであり、必ずしも正しいものではありません。特に、著作権の問題は判決が出ない限り決着が着かないことが多いので、その点ご了承ください*1。間違っているところがあれば、ご指摘いただけると嬉しいです。
  
注:著作隣接権については詳しく言及していません。勉強不足で抜けているところなので、著作隣接権を考慮するかで変わるところがあるかもしれません。
  
2016/1/24追記 新しく記事を書きましたのでそちらも併せてごらんください。この記事は著作隣接権について省略している点で不十分です。
humotty-21.hatenablog.com


   

結婚式における音楽利用に係る著作権

著作権は複製権や公衆送信権など著作物に係る権利の集合体です。
結婚式で音楽CDなどからBGMを流す行為には、著作権の中でも、複製権と演奏権という2つの権利が関係してきます。
  

複製権
音楽を複製(コピー)する権利。購入したCDをパソコンに取り込んだり、編集(トリミング)などで一部の部分だけを別のCDにコピーするために必要
演奏権
音楽を演奏するために必要な権利。CDから再生する場合も、著作権法上は演奏にあたる(複製ではない)。

  
著作権は基本的に全ての著作物に存在し、それを利用するためにはすべからく権利者の許諾を得なければなりません。
但し、一部の行為に対しては例外的に著作権者の著作権の権利制限が認められており、誰でも、著作権を侵害することなく著作物を利用できます。
私たちが日常で著作権を意識することなく著作物を利用しているときは、ほとんどすべてがこの権利制限に当る行為です。
例えば、図書館で本を借りたり、コンビニで本をコピーしたり、家でテレビを録画するのも、全て著作権法上で定められた権利制限の中の行為なのです。
権利制限に当てはまらなければ、一般的に、必ず著作権料を支払うか権利者から許諾を得なければなりません。
なので、まず結婚式における音楽利用が権利制限に該当するかどうかを確認する必要があります。
  
ここで重要なのは、結婚式において利用する著作権には複製権と演奏権があり、それぞれの権利の利用者(許諾の申請者)が異なり、かつそれぞれの権利制限の条件も異なるということです*2
  

複製権

まず複製権です。結婚式のBGMは1曲まるまる流すよりも、欲しい部分だけ、や何秒だけ、という部分的に流すことが多いので、ほとんどの方は事前に編集されるのではないかと思います*3。この編集の際に複製権が関わります。
複製権の権利制限で主に適用されるのは最も有名な著作権法第30条の"私的使用のための複製"です。

第三十条  
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

この私的使用のための複製権の権利制限は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において」が条件です。この人数は4~5名程度とされていますので、結婚式を目的にした場合は適用されないと解されるのが普通な気がします。
なので、音楽CDを複製する際の権利は管理団体に権利許諾を申請する必要があると思います*4
この許諾申請は個人でも行うことが可能です。著作権の管理団体はJASRACだけではありませんが、結婚式に利用するような曲の多くはJASRACが管理していると思いますので、JASRACに個人で権利許諾の申請を行うことが適切だと思われます。
許諾申請の方法とおおまかな金額は次の機会に。
  

演奏権

次は演奏権です。
ややこしいですが、音楽CDを再生することも演奏権にあたります。「再生」という言葉で誤解しそうになりますが、複製権ではありません。もちろん、再生だけでなく歌ったりバンド演奏することも演奏権にあたります。
個人が演奏権を利用することについては、以下の複製権とは異なり、第38条の権利制限が該当します。

第三十八条 (営利を目的としない上演等)
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

第38条の権利制限に該当する条件は、(特定及び不特定の)多数ではないことや営利性です。
個人が結婚式で演奏権を利用することは、ご祝儀が営利性にあたらないこと(ご祝儀から利益を得ないこと)、また参加者が特定多数ではないこと(一般的に、50名以上という解釈があります)が条件となります。これは微妙なラインですが、しかしそもそも、結婚式での演奏権の利用者・許諾申請を行う必要があるのは個人ではありません。
  
結婚式における演奏権は、音楽を再生する場所、つまり式場が利用する者と解釈されます。
著作権法上超有名なクラブキャッツアイ事件ですね。カラオケ法理といわれるそうです。
  
カラオケ法理 - Wikipedia
  
演奏権は結婚式場が利用すると解されます。式場はほとんどすべてが営利行為なので、これは権利制限が適用されません。
結婚式場は自館において演奏される曲全ての演奏権の著作権料を支払う義務があるのです。そのため、一般的にはカラオケ店などと同様に、既にJASRACなど管理団体と包括契約を結んでいると考えられます。
  
つまり、結婚式における演奏権の利用は問題なく行えるというわけです*5
  

どうしてこんなに分かり難くなってしまったのか!

戦犯は間違いなくISUMです。
加えて、著作権の理解なく著作権の記事を書くことはすごく難しいのだと実感しました。というか生半可な知識があっても間違えます。現に私も記事を書く途中まで第30条と第38条の権利制限の条件を混同していました。
  
ISUMとは、一言でいうと結婚式における音楽CDの複製権処理の代行申請を行う団体です。
これだけならまだ分かるのですが、彼らが対象にしているのはブライダル事業者です。もちろん、DVDやCDを制作する事業者が一括申請できるということでメリットがあるのですが、式場などもまとめて対象にしてしまっていること、また著作権を理解している人が少ないからか、「結婚式で音楽を使うことは著作権侵害にあたるため申請して許諾を得る必要があります」なんていうおおざっぱな説明で通しているために大きな誤解が生まれているのではないでしょうか。
  
ISUM自身も途中まで演奏権の権利許諾の条件を複製権にあてはめて宣伝していました。これは間違いです。しかし、当初のプレスリリースを介しウェブニュースで波及し、それが当然のように流布しています。で、それを読んでおかしいと思う弁理士がブログを書くのですが、そもそもISUMが管理しているのが演奏権ではなく複製権であるということを誤解するためにまた正しくない解説になるのです。
以下に詳しく書きます。
  
ISUMは設立当初、結婚式におけるご祝儀を得ることが営利性にあたるため、また特定多数に公開するために私的利用を逸脱すると説明していました。
現在は修正されているため、過去のその文言を引用したと思われるNAVERまとめから転載します。
  

Q3.
自分の結婚式で市販楽曲を利用することは、なぜ私的利用の範囲を超えるのでしょうか?
A3.
〝私的利用〟とは、自分が楽しむため(家族や家庭内を含む)が前提となります。ブライダルの現場は、不特定多数の人が集まる場になり、またご祝儀は入場料にあたる解釈となりますので、私的利用の範囲外となります。
出典 著作権Q&A | ISUM

これまでで述べたように、営利性や特定多数は演奏権の権利制限ですので、複製権は関係ありません*6
ISUMも途中で気付いたのでしょう。今は下記のように修正されています。
  
著作権のQ&A | ISUM

Q3.
自分の結婚式で利用するために市販CDに収録された楽曲を複製することは、なぜ私的使用の範囲を超えるのでしょうか?
A3.
〝私的使用〟とは、自分が楽しむため(家族や家庭内を含む)が前提となります。披露宴での上映を目的とした複製は多数に向けているため私的使用とは捉えられません。なお、挙式者などから委託された事業者が複製する場合は当然に私的使用の範囲外となります。

  
これは正しいですし、ISUMの行っている権利許諾の代行申請も適法です。結婚式を行う場合、複製権を処理する必要があり、ビデオ撮影などの事業者がISUMを利用して申請を行うことは理に適っています*7
しかし、ISUMが当初出したプレスリリースは、第38条の権利制限の条件で説明していました。
そしてそのプレスリリースを利用してウェブでニュースを書いた人たちもまた、間違った説明をしているのです。そもそも彼らは、複製権と演奏権の区別がついていないのでしょうが。
そして結果的に、ブライダル事業者も正しく理解できずにいるという現状です*8
  
試しに、Googleで「結婚式 著作権」で検索した結果、上位2ページに表示される結果から間違った説明をしているものを上げてみましょう。

4/1から費用が変わる!?結婚式の曲選びに注意!【著作権】 - NAVER まとめ
  • 演奏権と複製権およびその権利制限を混同
  • 個人と事業主を混同
  • 4/1から違法になったわけでもなく、ISUMが設立されたから違法となるわけでもない
「結婚式での音楽利用」に特化した著作権管理団体、活動開始 | スラド YRO
  • 厳密にはISUMは著作権管理団体ではなく権利処理の代行申請団体(著作権管理団体は法律で規制されている)
  • 演奏権と複製権およびその権利制限を混同
  • ISUMに料金を支払うから許諾を得られるわけではない。JASRACに直接申請も可能
http://dews365.com/news/topics/wedding-copyright.html:title=
  • 演奏権と複製権およびその権利制限を混同
  • ちなみにダンスイベントの方がもっと権利処理の知識は普及している模様
お金かかるよ? ブライダル音楽の“適法化”求める業界団体が申請システム公開 - ねとらぼ
  • 同上

    
全てはISUMの間違ったプレスリリースと説明不足のせいな気がしてきました。くそー。
  
結婚式・著作権で検索すると映画や映像(上映)も係ってくるようで、そのことについてのページも多かったです。映像はまた係る著作権が異なりとても難しいので、まだ勉強していません。。
  
ちなみに、不足はあるが正しい(間違っていない)と思われるページは以下。
一番正しくてわかりやすくい説明をしてくれるのはJASRACです。JASRACさすが。

    

まとめ

結婚式の主催を考えた場合、複製権は権利処理が必要となり、その処理を行うべきは主催者、つまり新郎新婦となります。
話題のISUMのスキームは、この処理を新郎新婦まかせにせず、式場が代行しましょうというものです*9。ここは詳しくないのですが、結婚式場には新郎新婦が正しく著作権の権利処理をしているか確認する義務があるようで、もし新郎新婦が著作権を知らず、権利処理を行っていない場合、結婚式場がその責任を負うかもしれないというリスクがあります。そのリスクを回避するために、ISUMでの代行申請に市場価値が生じてくるのです。
言い換えれば、新郎新婦が直接権利処理を行えば必要ないというわけです。JASRACに詳しくありますが、直接権利処理を申請することは決して難しくなく、かつ代行を挟まない分安価でありますので、招待状などの外注を省いてコスト削減をするのと同様に、自分で勉強して権利処理を行うことで結婚式にかかる費用を抑えようと考えることができます。
しかし、著作権に関する話は非常に難しく、結婚式場などブライダル関係者はもちろん、関係団体ですら正しく説明できないことがあります。もしかしたら、今後一切BGMは使えないと言われたり、著作権のせいで非常に高額な費用を要求されてしまうことがあるかもしれません。
本来はみんなが正しく著作権を理解し、適切に権利を利用できるようにあるべきですが、著作権が難しく、理解されにくいのも事実です。著作権法下で著作物を利用する一市民として、著作権法について学び、自衛することもまた1つの道かもしれません。
  
というわけで、次は結婚式で音楽を利用する場合の複製権の許諾申請方法について調べたいと思います。
2016/1/24追記 ということでこの計画は頓挫しました。

*1:なお、知識量としてはこの前ビジネス著作権検定の上級に受かったくらいです。知的財産管理技能士弁理士には遠く及びません。

*2:これを混同した記事が多く、かつ自分でも誤解していました

*3:この編集が翻案権やその他諸権利の侵害にあたるか、複製権のみかは行為の内容によっても異なりますが、ここでは単純な部分的複製と考えます。

*4:ちなみに、これの代行処理を請け負うため立ち上げられたのがISUMという団体で、これが事態をすごくややこしくしてしまいました

*5:仮に、新郎新婦の演奏権の利用が問題になる(結婚式が私的利用ではないと認められた)場合でも、ISUMでは権利処理を行えません

*6:そもそも、不特定多数は「どこかの誰か知らない人」という意味合いなので、結婚式に不特定多数が来るわけがありません。がしかし、特定多数でも権利制限にはあてはまらないのでここでは言及しません。

*7:ISUMは個人を対象にしておりませんので、個人で申請する場合はJASRACなどに直接申請するのが良いと思いますし、その方が安価です。

*8:元々は著作権の正しい利用行為なのに、巡り巡って著作権が厳しくなったから結婚式でBGMが使うことができなくなったとか言われる新郎新婦が一番の被害者です。おこです。

*9:もちろん、結婚式のDVDなどの撮影をオーダーしている場合はその処理も入ってきますが、その主体は結婚式場(撮影者)になります。