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アメリカにない薬学図書館協議会がなぜ日本で誕生し得たのか

図書館

薬学図書館に就職して以来ずっと不思議に思っていることがありました。
それは、日本の図書館学・図書館情報学は戦前戦後に関わらずアメリカに倣って発展してきたにもかかわらず、なぜアメリカにない薬学図書館協議会が日本にはあるのだろうということです。
直接この疑問に答えられるわけではないのですが、関連してアメリカに薬学図書館協議会がない理由を見つけました。


前回にも述べたように、村上清造に図書館学について教えを受けた伊藤四十二(東京大学薬学部教授/1964年より東京大学附属図書館長)は、

"それにつけても薬学に前記の医科大学図書館協議会のような横の連絡組織の無いことが誠に残念で、その結成を切望していた。"*1

ことから、全国の薬学大学の図書館にその結成を促し、1956年に日本薬学図書館協議会を興しました。医科大学図書館協議会と同様、その目的は図書館資料の相互利用ですが、村上清造が創刊号から13巻まで「薬学関係文献探索法」を連載するなど、薬学図書館員の教育の場としても非常に重要であり、日本薬学図書館協議会が生じたことが今の日本の薬学図書館に繋がっているといえます。
  
しかし、Pharmaceutical Libraryは、アメリカにはほとんどありません。論文を検索しても、Medical Libraryは山と引っかかるのに対し、Pharmaceutical Libraryはないのです。アメリカでは、SLAの分科会に薬学分野の連絡組織がありますが、Medical Library AssociationのようにResearch Library Associationとしての薬学は存在しません。
その理由について、前述「協議会十年の回顧」において、伊藤が次のように述べていました。
  

...医学のように国際的な連絡がとれないものかと思いまして, 10月にFIDに参加しました折に, The American Association of College of Pharmacyの事務局に参りまして, Executive Directorと会って話をしましたが, 残念乍らアメリカの薬科大学協会の中のLibrary Sectionは, 余り活潑な動きがないということで駄目でした。
そこで, National Library of MedicineのMiss Sewellに会って, 今の問題について相談しましたが, Miss Sewellの関心の主体は, Drug Informationにあり, 薬学全般の図書館の問題については, 駄目でした。
アメリカの薬科大学は強力なのは幾つかあるが, 全般的にみて非常に弱いんですね。図書館の見地からだけみますと, 薬科大学で独立した図書館をもつ大学は27に対し, 共用の図書館をもっているのは47と倍に近いのであります。それに対し医大では, 全部で99の中87と, 殆んど全部が独立しております。
こういう関係でアメリカでは薬学図書館のAssociationは出来ないのだということでございました。

  
なんとなく、アメリカの大学周りの環境が違うんだろうなと思いつつ調べられていませんでしたが、ここでは大学図書館の独立性が異なるために生じ得なかったと述べられています。薬学部(の図書館)は他の分野と共同であるのに対し、医学図書館はそのほとんどが独立しているという。それが単科大学だからなのか、総合大学でも医学図書館は独立して組織する文化だったのかはもう少し調べてみなければ分かりませんが…なるほどなあ、と思いました。
医学図書館協議会は戦前よりアメリカのMedical Library Associationの年会に参加したり、講習会に参加したりと連携をとっていたようで、アメリカの影響は多かれ少なかれあるんだと思います。
それに対し薬学図書館協議会はdomesticに発生してしまったわけです(「薬学図書館」の2号か3号でSLAのPharmaceuticalセクションと連絡取ってみたらあっちでも薬学図書館員の教育を始めようとしてるとこなの、って書いてました)。海外により発展した薬学図書館の知見がなくても薬学図書館として成り立ち得たところには、やっぱり村上清造が成した「薬学文献学」の影響が大きかったのではないでしょうか。そして、図書館情報学において完全domesticな分野っていうのは実はとっても珍しいのではと思うのです。
  
ちなみに、村上清造の薬学文献学は日本薬学会の薬学文献部会を経て現在の医薬品情報学に繋がっています。つまり間宮不二雄らからの図書館学が薬学分野においては医薬品情報学という一つの学問分野を成しているのではないかと妄想しているわけですが、それはまた別の話。

*1:伊藤四十二. 巻頭言. 薬学図書館, 1956, 1(1), p.1.